同じクラス?
言われて思わず目を見開く。だが、いくら凝視しても見覚えがない。
「同じクラス?」
首を捻る美鶴に、相手は笑った。
「あぁ、でも九月からね。君は昨日まで休みだったし」
「九月から?」
「一年間、留学してたんだ」
「あぁ」
ようやく納得する。そう言えば九月一日に登校した時、留学生が三組に編入されると女子生徒たちが噂していた。
確かその日は理事長室やらへの挨拶を優先しているから、三組の教室に来るかどうかはわからない… とも言っていた。
理事長への挨拶か。
鼻で笑ったのを覚えている。
納得はしたがさして興味はない、という仕草を前面に押し出し、美鶴は相手と改めて向かい合った。
なるほど、女性ウケしそうだな。というよりも、彼自身もきっと異性を意識しているのだろうな。
毛先に動きのある、濃い茶色の髪の毛。長めの襟足はたぶん計算しての長さだろう。
奥二重にかかる前髪が鬱陶しいが、遊ぶ毛先から覗く瞳を、甘く見せているのかもしれない。
線はどちらかと言うと細めだが、角ばった輪郭や顎のライン。ユニセックスな男前だ。
どれこもれも上質。人間は神が造るものだと信じている人もいるようだが、もしそうだとするならば、小童谷陽翔は極上の出来ばえだ。
教室でも目立つだろう。今日一日、同じ教室で過ごしていたのに気付かなかった自分に、美鶴は少しだけ驚く。
まぁ 今日は、久しぶりに登校してきた美鶴への同級生からのチョッカイが激しくて、応戦するのに精一杯だった。
先ほどの小童谷の言葉。
「誰に対してもそんな態度を取るんだね」
たぶん、教室内で繰り広げられた美鶴と同級生たちとのバトルを踏まえたうえでの発言だろう。同級生の怒りをわざと煽っては侮蔑して楽しんでいるかのような美鶴の態度。相変わらずだった。
「君の噂は聞いていた。やっと会えて嬉しいよ」
笑うと、周囲が華やかになる。だが本当に喜んでいるのかどうかは疑わしい、曖昧な表情を見せる小童谷。
だいたい、どんな噂を聞いてたって言うんだ?
笑顔に騙されるものかと睨みつける。
やや甘めの顔立ちはモテそうだ。でも、甘い顔と言うのなら瑠駆真の方が…
っ!
瞠目する。
すばやく頭を振り、訝しげに眉を潜める聡の視線から逃げるように、毅然と小童谷を見返した。
「で?」
「はい?」
「何か用?」
陽翔は、なぜだか不機嫌そうな相手の問いかけに首を傾げ、ゆっくりと答える。
「いや、君に用事というワケではなくて」
申し訳なさそうに眉尻を下げ
「君に…」
視線を動かす先。彫の深い面の、円らな瞳が揺れる。
「僕?」
視線で示され、瑠駆真の顔が困惑に彩られる。
冷静沈着さが人気の彼。そんな瑠駆真がこのような表情を見せると、女子生徒は頬を染めて大喜びする。
「そう、君」
陽翔は、大輪の華とは言えずとも微かな色気を漂わせた瑠駆真に、口元を緩めた。
「君、山脇くんだよね? 山脇瑠駆真くん」
「そうだけど」
「君にお願いがあるんだ」
傍らで、緩が小さく掌を握る。
「今度の唐渓祭で、生徒会が主催するお茶会に、ゲストとして参加して欲しいんだ」
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